終わりが見えない介護の辛さ

「ご飯を口に入れた後、どうしたらいいかわからない……」と言う父を放っておくわけにはいかない。まず、父が迷わずに食べられるように、単品料理を出すことにしてみた。困った時のカレーライス。子育てをしていた時もよく使った手だ。

「全部食べられたね!」と褒めてあげられるようにするために、小ぶりのお茶碗にカレーライスを盛り付けた。コーンスープは、カップに入れてから冷たい牛乳を混ぜて、飲みやすくしておいた。

2品のみの夕食作戦は成功し、父はカレーライスを完食することができた。箸を使うと迷うが、スプーンならOKだとわかったのは、大きな成果だった。

翌日は小さなおにぎりと、卵焼き。野菜を食べるのは面倒くさそうなので、当分の間、野菜ジュースと果物で補うことにする。

食べられるものは少しずつ増えたが、栄養が不足しているのは明らかで、父は目に見えて痩せ始めた。私は病院に連れて行きたいのだが、父は「いやだ。俺は元気だ」と言うばかりだ。

私の亡くなった弟には二人の娘がいる。上の子は札幌に住んでいて、とてもしっかりしていて、私にとっては頼りになる姪だ。父が食事を摂らなくなってしまったと連絡すると、姪はすぐに駆け付けてくれた。

「おじいちゃん、病院に行こう」
孫が心配してくれているのに、父は、洋服を着替えるのが面倒だとか、病院は混んでいるから嫌だとかごねている。すると機転の利く姪が言った。

「そのパジャマ、ブルーのチェックが素敵だよ。上にジャケットを着てしまえば、普通のシャツに見えるから、着替えなくても大丈夫」
そう言われた途端、父は椅子から立ち上がり、下半身に目をやった。

「下もこのままでいいか?」
「いや、おじいちゃん、ズボンははいた方がかっこいいよ」

姪が使った「かっこいい」という言葉に、父の心が動いたのがわかった。
私は急いでズボンと靴下を用意して、姪と二人でサッと着せることに成功し、父は病院で診察を受けることができた。水分と栄養の補給に点滴を受けた父は、前日までとは別人のように元気になった。

父の心身のコンディションに一喜一憂する生活は、いつまで続くのだろう。

(つづく)

◆本連載は、2024年2月21日に電子書籍・アマゾンPODで刊行されました