はじめて泣いた、やなせたかしさんの絵本
――TikTokのコメント欄でも、「泣けちゃう」「この絵本が欲しい」など、たくさんの反響がありました。
とてもありがたいですね。僕はわりとメンタルが弱くて、ちょっと批判的なコメントがあると、すぐ凹むタイプなんで、あまり見ないようにはしているのですが……。この物語には、賛否両論というか、「牛が救われたら」という感想を持つ方もいらっしゃると思いますし。
ただ、僕は昔から、絵本でも映画でもハッピーエンドじゃない物語が心に残っていることが多くて。『もうじきたべられるぼく』でも、そういうものを表現したかったのだと思います。最後のシーンやセリフについても何度も悩みましたが、子牛に何か直接的なメッセージを言わせるのではなく、漠然と終わるというか、モヤッとさせました。何を感じ取ってくださるかは、読んだ人にゆだねよう、と。
――「ハッピーエンドじゃない物語が心に残っている」とのことですが、思い出に残っている作品はありますか
絵本でいうと、やなせたかしさんの『やさしいライオン』ですね。孤児のライオンがお母さん代わりの犬に育てられる物語で、大きくなったライオンがやがてサーカスに入るんです。でも、ライオンは母親に会いたくなって逃げ出してしまい、ライフルを持った軍隊みたいなのが出てきて、最後は……という、悲しいお話なんです。
自分が絵本作家になろう、と思い始めた20代の頃に読んだのですが、絵本を読んで初めて泣いた作品です。ずいぶん昔に読んで、いまでも何か引きずっているものがあるかもしれません。
映画だと『エレファントマン』という作品が印象に残っています。病気によって体が変形してしまい、周りから「エレファントマン」と呼ばれる男が見世物小屋に入れられるっていう話で。見世物小屋にはほかにも、どうしようもなく不幸な人生を生きてる人たちがいて、彼らがみんなでエレファントマンを逃がしてやる、っていうシーンがあるんです。「いやいや、あなたたちもじゅうぶん不幸でしょう。なのに誰かを助けるなんて……」って気持ちになって。僕、そういうのにすごく弱いんです。こうした作品から、何かインスピレーションを受けることが多いですね。