©資人導(Vale.)
2021年11月9日、満99歳で波乱の生涯を閉じた作家・僧侶の瀬戸内寂聴さん。恋愛に生き、情熱を作品に昇華させる前半生を送った彼女に出家を決意させたのは、同業者で妻子ある井上光晴との7年もの道ならぬ恋。その渦中にいた井上夫妻の長女で直木賞作家の井上荒野さんが彼らをモデルに綴った傑作小説「あちらにいる鬼」が映画化され、2022年11月11日より全国公開されます。主人公・長内みはる、のちの寂光を演じる、寺島しのぶさんが、映画やご家族のことなどについて語ってくれました。
(構成=かわむらあみり)

3人のような特殊な関係には飛び込めない

普段は自分の出演作をあまり観ないのですが、今回は完成した映画『あちらにいる鬼』を観てみると、良い映画でした。長内みはるという役は、簡単にできる役ではありませんし、瀬戸内寂聴という方の存在もあります。以前から、原作者の井上荒野さんの本が好きだったので、今回のお話はうれしかったです。映画でも原作に忠実なせりふが出てくるので、私自身、そこはあまり変えたくないなと感じて演じました。

コロナ禍でなかなか撮影ができない状況もありました。3年越しでやっと撮影が終わり、みなさんにお届けできるようになって、ホッとしています。

私が演じている長内みはると、豊川悦司さん演じる白木篤郎は、それぞれに妻子やパートナーがありながら男女の仲となるわけですが、彼は自宅では幼い娘を可愛がり広末涼子さん演じる妻・笙子の手料理を絶賛するような男なんですよね。

もしも実際、私がこの特殊な関係に飛び込めるかといえば、とくに篤郎のような夫を持つ奥さんにはなれない(笑)。みんな我慢できるのかなあ。気持ちが高まると、きっとどちらかの家にまで行ってしまいますよね? 昔はそんな時代もあったとはいえ、普通にこっちにも来て、普通にあっちにも戻って、行き来している彼が一番大変ですよね。映画の篤郎にしても、どう自分のなかで折り合いをつけているんだろうなと思います。