「痛みと戦うだけで1日が終っていた時期が過ぎ、生活自体はしやすくなるのですが、そうなると今度はメンタルの問題が出てくるんですね。」

どうしてこんなことになっちゃったんだろう

舌がんの検査を受けた時、私の病状はすでにステージ4まで進行していました。人は「がん」と告知された時、最初に湧き上がってくるのは絶望だと言われますが、私の場合、不思議とそれはなかったんですよね。取り乱すこともなく、怖くもなく、涙も出ずと、すごく冷静に受け止める自分がいた。我ながら強いなと思ったほどでした。

2019年の2月に手術をし、悪い部分はすべて取り除くことができました。けれども本当に大変だったのはそのあとです。声は出ないし、舌の残った部分に太ももの皮膚や皮下組織の一部を移植し、舌を大きめに作るために、口を閉じることもできない。首のリンパに転移があり、左側のリンパ節などを取った影響で首回りが腫れて痛い。顔もはれ上がっている。

術後3週間でリハビリが始まり、嚥下の訓練にゼリーを食べようとしても口の中であっちこっちに滑ってしまい、リハビリも進まない……。毎日「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」と、そればかり考えて落ち込んでいました。

5月になると「もう体のほうは大丈夫です。そろそろ社会復帰ができます」と言われるまでに回復。実際、痛みと戦うだけで1日が終っていた時期が過ぎ、生活自体はしやすくなったのですが、そうなると今度はメンタルの問題が出てくるんですね。

「なぜ最初に診断した歯科医の先生は舌がんに気づいてくれなかったんだろう?」「なぜがんかもしれないと思わなかったのだろう?」「そもそもそれまでの私の生活習慣が良くなかったんだろうか?」と、どんどん意識が過去に戻っていく。

明るく振舞ってくれる家族の言動に傷つき、「もっと私の気持ちに寄り添って、いたわってくれてもいいのに」と不満に思うこともありました。家族は家族でどう接すればいいかわからず、私の前では泣けないしで大変だったと思うのですが、当時の私には家族の気持ちを思いやる余裕などなかったのです。