清水研先生と

過去ばかり見ていないで前に進まなくては

悶々とする私を現実に引き戻してくれたのは、やはり家族でした。ある日、夫から「きみは『あなたたちにがん患者の気持ちはわからない』と言うけど、きみはがん患者の家族の気持ちはわからないでしょ?」と言われたのです。本当にそのとおりだと思いました。

当時16歳だった娘も「お母さんは病気だから、辛くても我慢しなきゃいけない、もっと大人にならなきゃいけないと思っていた」と……。この時、家族にそんな思いをさせてしまったことを反省すると同時に、せっかく助けていただいた命なのだから、過去ばかり見ていないで前に進まなくてはと強く思ったのです。

がん研究会有明病院・腫瘍精神科部長の清水研先生からお話をいただいたのは、その頃でした。私のブログを読んでくださり、対談に誘ってくださったのです。清水先生は、がんのことを学んだうえで、患者さんと家族のメンタルに特化したケアをされている方です。

がんは治ったのに自ら死を選んでしまう人が多いことや、がんへの偏見に悩む人が多い現実を鑑み、心のケアに力を入れていらっしゃる。先生とお話をした時、「私はこういう話がしたかったんだ!」と胸のつかえがスーッと取れた気がしました。

今回出版させていただいた『今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す「キャンサーギフト」』という本は、清水先生との対談をまとめたものになります。がん患者さんはもちろん、患者さんの家族の方にも読んでいただきたいですし、これを読んで「私も頑張ろう!」と思ってもらえたら、私がこの病気になった意味があったということになります。

まだまだ以前のように喋ることはできませんが、それでも何とか頑張ってこうしてインタビューを受けられるくらいまでにはリハビリの成果も出てきました。40周年のアニバーサリーコンサートのために、ボイストレーニングもしています。

あの時、娘に懇願されて手術を受けて良かった、諦めなくて良かったとしみじみ思います。がんは早期発見・早期治療をすれば、治る確率が上がる病気と言われています。
でもがんの告知を受けた傷は深く、トラウマにもなったりします。
体だけでなく、心を癒すことも大切だそうです。

私はそれらの大切さを世の中に伝えたい。今はそんなふうに考えています。