ボダ子

著◎赤松利市
新潮社 1550円

著者自身と思われる男の
凄まじい凋落の半生

〈娘はボダ子と呼ばれた。ボーダーだからボダ子〉

戦慄を呼ぶその冒頭に、心鷲摑みにされ、そのまますべてを持っていかれる衝撃的な私小説、いや怪作だ。表題は境界性人格障害(ボーダー)から取られたものだが、ここに描かれるのは、ボダ子の父親で著者自身と思われる大西浩平の凄まじい凋落の半生である。

バブル期のあぶく銭を手にした浩平は、結婚・離婚を繰り返しながらも順風満帆な日々を送っていた。ところが3番目の妻の娘が境界性人格障害と診断されたときから人生の歯車が狂いはじめる。震災復興事業のため移り住んだ被災地にボダ子とその母親を呼び寄せ、同居するようになったが、仕事はうまくいかない。過酷な土木作業員へと転じ、貧困の影がしのび寄ってくる。追い詰められ、金儲けのことしか考えられなくなった彼は、再起をかけてある事業にのり出すのだ。

とにかく浩平の欲望丸出しダメ男、クズ男っぷりがハンパない。家庭を顧みず、嫌なことがあると別の女に逃げてしまう。娘の発症も自分のネグレクトが原因と知り心を痛めるが、時すでに遅しだ。

そんな浩平の目を通して描かれるのは、被災地復興という名のもとに集まってくる黒い震災マネーの渦、そしてそれに群がり、翻弄される人々である。悪質な義援金ビジネス、利権争いに動く裏金、胡散臭いボランティア……浩平のみならず、ボダ子も母親も、登場する人たちみんなが強烈だ。欲望と禁忌の境界線(ボーダー)でのたうちまわっている。

的確な場に向かって情け容赦なく鉈なたを振り下ろしてくる力強い文体、生臭いまでのリアルな描写、この怪作には「文学」の力が横溢している。