猪木 悲しみに浸っていられない。家内が「仕事は絶対に変更しないでやり遂げてください」と言い残しているから、これはこれでちゃんと仕事はこなしていきます。
中村 猪木さんといえば、プロレスラーになにができると揶揄されながらも、イラクや北朝鮮外交で独自の人脈を築きつつ、国会議員を続けてこられました。
猪木 議員のバッジがあろうがなかろうが関係ない。私は格闘技を通じて世界に知られていますから、政界ではそれを最大限利用して自分なりの外交努力をしてきたつもりです。しかし残念ながら、いまの日本の政治家にはそれを生かしてくれる人はいませんでしたね。政界引退も、そもそも議員にしがみつくタイプではないし、2年前くらいかな、体力面・健康面を考えて決めました。
中村 では最後に、ご自身の死生観を伺えますか。
猪木 湾岸戦争直前に起きた、イラクの日本人人質解放のときに、イラク大使が古代メソポタミア文学の『ギルガメシュ叙事詩』を私にくださったんです。何度も読み返して影響を受けたんですけど、そこにも人間の死が描かれている。当然、死はいつか来るわけですよ。よく「猪木さん、100歳まで生きてください」っていわれるんですけど、その人の寿命があるんだし、ときに、なんで100歳まで生きなきゃいけないの? って反発する気持ちが湧くこともある。
中村 なるほど。
猪木 何歳でもいいじゃないですか、元気であればいいんです。年を取れば病気になったり、介護が必要だったり、いろんな人の手を借りて迷惑をかけてしまうでしょう。こういう社会の高齢化のなかで、生きるってなんだろうと、政治的にも社会的にも、だれかがしっかりしたメッセージを送らないといけない。
じゃあ私はわかるのかというと、まだ私にもわからない。死んだらどうなるのか、生きるってなんだろう、人類の永遠のテーマですよね。しかしね、どんなに年を取ろうが、体が弱くなろうが、チャレンジし続けることが人生です。そしてお迎えが来たときは、いさぎよく旅立っていければいいなと思っています。