ベストな対応はあるのだろうか

父が認知症と診断される少し前の昨年の晩秋のことだ。一日中テレビを見て過ごしている父は、ネタが少ないから、インパクトの大きいニュースに触れると、同じことを何度も私に伝えるようになっていた。

「瀬戸内寂聴さんが亡くなった。99歳だったって、お前、知っていたか?」

「うん。知っていたよ。ご立派だね、最期までお仕事をされていて」

最初はこのように返事をするのだが、訃報を何度も言われると、気持ちが滅入る一方だ。つい、父の話を遮ってしまう。

「さっきもニュース見ながら、そう言っていたよね。もうその話はやめて!」

しかし、それから1か月ちょっとで父が認知症患者に認定され、私は父の「保護者」であると思った途端、口答えや反論を飲み込むようになった。

同じことを何度聞かされても、「そうだね」と答えて、寄り添っていかなければならないという、認知症患者への対応の情報が、世の中に溢れている。わかっていても、相当自分の感情を抑えなければ、寄り添っていけない。

父が繰り返し同じことを言ったり、わがままな言動をしたりする度に、私はその原因や理由を追及したり分析したりして、冷静になろうとしてきた。そして、父の症状に対して、毎回、私の対応は適切だったのかを顧みる。

子育てをしていた時代、子どもがわがままを言うと、「私の育て方が悪かったのだろうか……」と思い悩んだものだが、それとすごく似た心情だ。父の認知症の進行に私の関り方が影響しているのだろうかと、いちいち責任を感じて息苦しくなる。

認知症の人に対するベストな対応について、考えれば考えるほど、介護する家族は我慢を強いられている気がしてならない。