100歳以上の人口は9万人以上
札幌駅前に、大きな書店がある。自分の著書が置かれているのをさりげなくチェックしてから、私は介護の専門書コーナーに向かった。
介護関連の資格取得のためのテキストなどの横に、認知症関連の本もたくさん置かれていた。認知症の当事者が書いた本を読めば、少しは父の思考を理解できるかもしれないと、私は2冊買って帰ってきた。
本を読んで、父の認知症の症状に対する私の対応に、大きな間違いはないとわかり、安堵した点が多々あった。やはり、患者の気持ちを尊重し、寄り添うことが大切なようだ。
9月になって「敬老の日」が近づくと、父はニュースで聞いた情報を、得意げに私に言った。
「100歳以上の高齢者の数は、9万526人だと。随分多いな」
父は昔から数字に強く、その能力は認知症になっても失われていないらしい。
「あ、そうなんだ」
適当に相槌を打つ私に、父は絡んできた。
「何人だったか、覚えたか? 言えるか?」
熱中症で体力が落ちていた時は、このように私を見下したような言葉は出なくなり、かわいいおじいさんだったのに、本来の姿を取りもどし始めたのだろうか。
会話が弾むのはうれしくもあるが、同時に腹立たしくなる。親子の緊張関係が再び始まる予兆に、父に寄り添おうと思っていた気持ちは、すぐさま吹っ飛んだ。
「9万人以上でしょ」
端数を覚えられない私を呆れたように見た後に、父がつぶやいているのが聞こえてきた。
「俺は、後6年で100歳か……」
社交辞令で、私はエールを送った。
「それまで元気で頑張ってね」
父はうなずいてから、私の孫の年齢を訊ねた。
「3歳だよ」
「そうか、俺は計算が早いからわかる。大学に入るのは15年後だな」
「そうだね」
「俺は、109歳か……」
「あ、私はその時、81歳だ……」
今度は父が、私を励ました。
「今の俺よりずっと若い。元気で頑張ってくれ」