デジタル・ホモルーデンス―「手」で遊ぶサンプラー

このSP1200と並び称されるヒップホップ・サウンドを決定づけたサンプラーがAKAIのMPCシリーズである。

MPCは4×4=16の大きなパッドで構成されたもので、専門的な知識も不要できわめて操作性が高い。この誰でも操作可能な構造は、赤井電機とMPCシリーズを共作したロジャー・リンが、スティーヴィー・ワンダーから受けたアドヴァイスを考慮したものだ。

リンが自作したドラムマシーンを盲目のスティーヴィーに渡したら、使いこなせなかった。それゆえ余分な機能を一切捨て、大きな入力用パッドと音声ガイドのメトロノームのクリック音などを採用して、極度にシンプル化。この説明書のいらない直感的なニューマシーンをリンがスティーヴィーのもとに持っていくと、彼が気に入ったというのだ(4)。

だからリンが最初に手がけたドラムマシンLM-1からAKAI MPCへと引き継がれていく直感重視というコンセプトは、スティーヴィー・ワンダーの触覚性に根っこがあったのだ。

「触覚は、芸術作品に一種の神経組織、あるいは有機的統一を与える」というマーシャル・マクルーハンの言葉を踏まえれば、サンプラーを叩くDJは手を使うことによって、無機的機械と有機的人間の共生体となるのだ(5)。