独自の宇宙哲学を持つサン・ラーの楽団は、その自由のなさから「ラー刑務所」とまで呼ばれていたそうで(写真提供:Photo AC)
サブスクリプションサービスの浸透で、さまざまなジャンルの音楽を気軽に聴けるようになった昨今。そのうち特にブルース、ジャズ、ファンク、ヒップホップなどのジャンルと切っても切れない関係にあるのが“黒人音楽”で、「壮絶な差別との闘いを続けてきたアメリカ黒人の反骨の精神が表現されてきた」と語るのが批評家でライターの後藤護さんです。中でも独自の音楽性を持つジャズ作曲家サン・ラーの楽団は、その自由のなさから「ラー刑務所」とまで呼ばれていたそうで――。

サン・ラー

独自の音楽性と哲学、そしてパフォーマンスで知られるジャズ作曲家、サン・ラー。

2021年1月には、彼が脚本、音楽、主演をつとめたSF映画『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』が日本で初公開された。

そんなサン・ラーが率いる楽団「アーケストラ」に対して完全な独裁体制をとっていたことは留意すべきである。想像しにくいことであるが、フリーメイソンなど大方の秘密結社同様に、アーケストラは女人禁制が基本という時代があった。

60年代後半から参加するジューン・タイソンという女性ヴォーカリストは、既婚者であるという理由で何とか参加を許された(しかし寝泊まりする場所は別)。

ホワイト・パンサー党の党首ジョン・シンクレアからラーがデトロイトにゲストとして呼ばれた折には、MC5のような地元バンドの荒くれ者たちが女性をぞんざいに扱うのを見て、アーケストラの面々が影響されないか気を揉んだというエピソードも残されている。