独身者機械

このあたりは彼が「睾丸(こうがん)発達障害」を理由の一つとして兵役拒否をしたことと無関係ではなさそうだ(1)。

『黒人音楽史――奇想の宇宙』(著:後藤護/中央公論新社)

サン・ラーの半ば誇大妄想じみた宇宙哲学は女性への現実的な性的不能が別エネルギーに変換されたものだと考えることもできるかもしれない。

ミッシェル・カルージュが「独身者機械(マシン・セリバテール)」と呼んだ呪われた系譜にラーは属する。

カルージュが取り上げたフランス人作家レーモン・ルーセルなどこの独身者(セリバ)たちの一部は、言語が言語自体で世界を完結させる機械状オナニズムの円環に囚われている。そして脱出不可能性のなかで言葉をシジフォス的に転がし続ける永久運動を試み続けるのだ。

サン・ラーのトートロジカル(同語反復的)で造語主義的、おまけにパラドキシカルな言語の非生産性もそうした独身者言語に近いものがある。