最新の改定はどうだったか
樋口 振り返ると、いいこともありました。たとえば、介護福祉士など、資格制度を作ったこと。
上野 介護保険制度の設計のなかで、たとえ名目上であっても、介護にかかわる人を「有資格者」に限定したのは、とてもよかったと思います。ところが、です。コロナ下での人手不足を補うために厚労省が20年4月に出した通達が、「訪問介護サービスに関して無資格者でもサービス提供できる」。
つまり、「無資格者を使ってもよい」と。介護は誰にでもできる仕事と見なし、そこに「女なら」という発想が透けて見えた。20年前の考えと何ら変わっていないんだと、愕然としました。
樋口 それは、福祉の問題だけでなく、女性の地位全体にかかわる問題ですよ。女性の就労問題として捉えてほしい。就労は「貧乏ばあさん」を防ぐ最大の手段ですから。
上野 介護の人手不足と言いますが、実際は、有資格者の休眠人材は12万人以上と、たくさんいるのですよ。その寝た子を起こすには、介護職の方たちの介護報酬を上げることしかありません。
樋口 それをしない理由は?
上野 先にも言いましたが、社会保障費の抑制という政府の《不純な動機》があるからでしょう。
樋口 最新の21年の改定はどうだったか。介護保険料は3年ごとに市町村が決めるのですが、全国平均でアップ。改定のたびに上昇が続いていますね(現在の介護保険料は全国平均で月額6014円)。また介護報酬は引き上げられたものの、改定率0.70%の軽微なプラス改定でした。
上野 あのコロナ禍での現場の奮闘ぶりを見たのか、さすがに減額はされませんでしたが、上がっても微々たるもの。介護職の待遇改善のためにも、次の改定で介護報酬の切り下げを許さないのはもちろん、もっと上げてもらわなくてはなりません。そこに税金を投入するべきです。