2000年4月にスタートした公的「介護保険制度」。それまで家族頼みだった介護を社会全体で支えるべく施行され、多くの人に利用されてきた。しかし、3年ごとの制度改定や介護保険法の改正のたびに、サービスの切り下げと利用者の負担増が続いている。制度の誕生にかかわった樋口恵子さんと、介護の現場を取材し続けている上野千鶴子さんがいま抱く危機感について語り合った(構成=福永妙子 撮影=大河内禎)
「理想の介護」を目指すヘルパーたちの訴え
上野 そもそも介護保険制度は、現場で働く人たちがいなければ成り立ちません。ところが、利用者のために最善を尽くし、仕事に誇りを持ちながら、よい介護を目指してきた介護職の人たちが戸惑い、憤っています。最大の問題は、労働条件がまったく改善しないことだと私は思っています。
樋口 むしろ悪化している。
上野 訪問介護のベテランの方なんて、看護師並みの待遇にしてもいいくらいの技術を持っている。先ほど訪問介護で、「身体介護」と「生活援助」の話が出ましたが、そもそも二分できないものを、2本立てにしたのが制度設計上のミスと言われています。
そして、報酬についていうと、「身体介護」の報酬単価は30分以上1時間未満で396単位(1単位はほぼ10円)、「生活援助」は20分以上45分未満で183単位と、「生活援助」は、短時間かつ低価格に抑えられてきています。「生活援助」は在宅生活の支援に欠かせないのに。
樋口 「生活援助」は軽いもの、という発想がそこに透けて見えますね。