制度と運用は後退。いっぽう現場は進化

樋口 私は上野さんより16歳上の90歳。介護を自身の問題として考えざるをえませんが、実情を知ると気持ちは暗くなるばかり。

上野 いいお話もありますよ。介護保険の22年間で、現場は進化しました。サービスのメニューが増えたのです。「地域密着型サービス」というのは、現場の人たちが目の前のニーズに応えて作り出し、介護保険のメニューのなかに制度化させたもの。

デイサービスを中心に、訪問介護やショートステイを組み合わせた小規模多機能型居宅介護、それに看護がついた看護小規模多機能型。さらには、定期巡回・随時対応型短時間訪問サービスなど。

樋口 現場の知恵と工夫のおかげで、選択肢が増えましたね。その情報が利用者というか、住民にもっと行き届かなくてはね。

上野 メニューが増えただけでなく、介護の専門職の人たちの経験値とスキルが上がり、人材が育ちました。現在、訪問医療、訪問看護、訪問介護のあいだの多職種連携が実現していますし、訪問介護職の力量も上がっています。

私は北欧諸国にも取材に行きましたが、マンパワーの厚さと投入しているお金の量は圧倒的に違うものの、介護の質に関して日本はひけをとらないと確信しました。

樋口 そこは嬉しい。私は今、60代の娘と同居中。この先、一人暮らしもしたいけど、はたして私にそれが耐えられるかとも思うし、ならば施設かなと揺れております。

上野 樋口さん、おうちにいてください(笑)。訪問医療・訪問看護・訪問介護などのサービスを組み合わせれば、おひとりさまで最期まで機嫌よく暮らせますよ。

樋口 少子高齢化によって、25年には国民の約5人に1人が75歳以上と推計されている。介護保険法をどう運用するか、一歩間違えると日本の先行きは真っ暗です。

上野 「財源不足」を理由に改悪されてきましたが、なんといっても、「介護保険財政は黒字」なのです。その使い道に、保険料を払っている私たちが意見を言うのはまっとうなことですよ。

樋口 誰にとっても使いやすいものにするために、黙っていてはいけませんね。私も卒寿、介護保険の誕生にかかわった者として、そして、これから利用盛りの年齢の一人として声を上げ続けます。