筆者の関容子さん(右)と(撮影:岡本隆史)

ところで加藤さんには、数は少ないが映画俳優としての一面もある。『麻雀放浪記』(和田誠監督)の女衒(ぜげん)の達は名演だったし、『母と暮せば』(山田洋次監督)の闇屋の役では毎日映画コンクールの男優助演賞を獲得した。

――和田誠さんはつか芝居のポスターをずっと描いてらしたので、僕に声を掛けてくださったんですね。また山田洋次監督は下北沢でやる芝居は必ず観に来てくださってますが、あるとき珍しく楽屋へいらして、「映画に出ないか」って。

ありがたいけどこういうスケジュールです、と伝えたら、「全部《縫う》から」。それで本当に、芝居の休演日の前日からロケ先に行くという繰り返しで撮り終えました。監督にしては異例でしょうね、そんな役者の使い方をするなんて。

 

加藤さんの台詞術は耳に心地よい。大声ではないのに、そしていかにも台詞、というテクニックは感じられないのに、客席の後方まできちんと届く。なぜだろう。

――そうですか。いつのころからか、耳で喋る、っていうのを覚えたんですね。自分の耳で、声の返りを聴きながら喋る。単に劇場の大きさで音量を変えるんじゃなくて、その劇場の残響の長さによって、音量とスピードを変えるんです。

残響が多い劇場では、ゆっくり喋らないとうまく届かない。もちろん台詞に感情を込めるんですけど、だから感情と耳で喋るわけですね。

本多劇場や紀伊國屋ホールはほんとに小さな声でも届きます。地方公演でいろんな劇場へ行ったときも、舞台に立って、「ア、ア」と言ってみればすぐにわかりますからね。