しかし、しぶといM子は、まだ私に無理難題を言ってくる。私は書道師範の免状を持っていて、子どもが生まれるまでは教室で教えていた。M子は自分が運営する絵画サークルの発表会で出入り口に飾る題字を、私に書いてほしいと言うのだ。

プロに頼むと一枚数万円は覚悟しなくてはならない。「ねえ、書いてくれない? 画用紙でいいから」と。だいたい、書道の先生に画用紙に書いてなど失礼な話だ。そのうえ無料で書いてもらおうとする、この人間性が嫌でたまらない。もちろん丁重にお断りした。

後になって人から聞いた話では、M子の家系はみんな口が上手で、M子の母親も人にたかるのが得意だそう。そのDNAは、どうやらM子の子どもにも受け継がれているようだ。

やがて1年の任期も終わり、M子とお別れすることができた。やれやれ、これで家に来ることもないだろうと思っていたら、ピンポーンと玄関チャイム。なんと、M子ではないか。なんでも、仕事帰りに通りかかったら窓が開いていたので寄ったのだそう。用事もないのに!

実は私は当時ケーキ教室に通っていて、子どものおやつはすべて手作り。自宅にはつねに何かしらケーキが置いてあった。また、コーヒー豆にもこだわっていて、役員をしていたときにそれらをM子に出していたのだが……。今度はケーキとコーヒーに目をつけたのだ! それから毎日、喫茶店がわりにわが家に寄ってはお茶して帰るM子。もういい加減にしてほしいと思い、彼女の帰宅時間には外出したり、居留守を使ったりするようにした。

が、運悪く道でばったり会ってしまったとき、「またお茶に呼んで。ケーキおいしいからさ」とおねだり。社交辞令を言って本気にされては困るので、「仕事を始めてすごく多忙なの。ごめんね、久々だから疲れちゃって」と断り、その後もM子を道で見かけるたびに避け続けた。

やがて子どもたちも大きくなり、ここ10年ほど顔を合わせていない。今はマイペースな生活を送れているが、思い出してもあの頃はしんどかった。骨の髄までしゃぶるような女、M子。心の中で天罰が下れ、と祈っている。


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