M子がわが家で食事をするたびに、「おいしい、おいしい」と気に入っていたものがある。それは油。県外から取り寄せている高価な品なのだ。

ある日彼女が、「おとといは資料の整理で午前さまだったの。あ~疲れたわ。しんどかった」と恩着せがましく言ってきた。私が、「ありがとう。大変だったね」と言うと、すかさず「夫がお油のおいしいのを探しているの。前に食べたの、おいしかったね」と催促してきたのだ。

私は心の中で「あー、またか」と思いながら1本あげることに。あと4ヵ月、あと3ヵ月……。1年間の《お役》が終了するまでの我慢、と自分に言い聞かせた。

そして次にM子のターゲットになったのは、隣に住む祖母宅の家庭菜園。外の畑に目をやりながら、「明日の子どものお弁当に青いもの(つまり野菜)がいるの。少しちょうだい」と言うのだ。

「私の畑ではないから、祖母に聞かないと……」と答えると、ちょうど通りかかった祖母に、「青いのちょうだい」とおねだり。祖母が了承した途端、畑に入ってどっさり引き抜いて持ち帰った。

 

食べ物の次は洋服にまで目をつけられ

なんと図々しい女だろう。こちらには何ひとつ差し入れせず、畑の野菜まで持って帰るとは。しかしM子の暴走はこれで終わらない。「上の子どもの学校に行くから、『バーバリー』のコートを貸して」と頼んできたのだ。

へえ!? 私が大切に着ていたコートにまで目をつけていただなんて。しかし私の身長は163cmで、M子は152cmほど。コートがガウンになりませんか? それにM子に貸したら、コーヒーをこぼして汚されかねない。

一度許すと図に乗ってしまうと思ったので、「私は太くて大柄だけど、M子さんはスマートだからサイズが合わないでしょう」と言って拒否。3度ほど「貸してくれない?」と頼まれたが、「スーパーに素敵なコートがいっぱい売っているわよ」とあしらった。

しかしその後、彼女がコートを買った気配はない。自分のお金は使わず、人の服で自分をよく見せようなんて、なんというドケチ。それからM子と会うときは、Tシャツとジーパンにエプロンという姿を貫いた。