廊下上に設えられた「ぬい棚」。棚は各部屋の上部に取り付けられ、その全長は30メートルにもなるという

 

しかしこのぬいたち、私たち夫婦亡き後はどうなってしまうのか。うちは子どもがいないので姪と甥に引き継いでもらうしかないのですが、さすがに全部はムリでしょう?

だから私と夫、それぞれのお葬式の際、葬祭場にぬいを連れて行って、お焼香してくれた人たちに「形見分けとしてお持ち返りください」と書いて並べようと思っています。でも、う―んと頑張って300人が来てくれたとしても300体しか減らない。いっそ「お一人様につき3体お願いします」って義務づけておこうかな。(笑)

よく老夫婦が「生きがいのために動物を飼いたい。でも、自分たちが死んだ後のことを考えると踏みきれない」と悩む話を聞きますが、その気持ち、とてもよくわかります。ぬいは原則的に死にませんから……。うちの場合、夫は私亡き後もちゃんと面倒を見てくれると信じていますが、ぬいに興味のない妹には、それは期待できないと思いますし。

せめてもの対策に、夫が定年になって時間ができたら、ぬいの里親募集のホームページを作ってもらおうと考えています。彼らの名前やエピソードを全部書いて、かわいく写真も撮って。兄弟や親子、夫婦のぬいは離れ離れにしたくないので、極力同じ人に引き取ってもらい、でも私が元気なうちは全員の面倒を見たい――と、いろいろ要望もあって難しいです。

実は今、「ぬいの美化運動」というものを実施しています。ぬいぐるみクリーナーで1匹ずつ拭いていくので、1日にせいぜい2匹くらいしかできないんですけどね。最初は東日本大震災の際に、リビング上の棚から落ちて汚れた子たちを拭いていたのですが、どうせならほかの子も「美」にしてあげようと思って始めました。

美にする前と後とでは、みんな表情がガラッと変わります。美が終わるたびに夫に見せるのですが、どの子もすごく誇らしげな顔をしていますよ。

ちなみに、リビングの子たちを拭き終わるまでに、丸3年かかりました。今、美にしている子たちが終わる頃には、最初に拭いた子がまた汚れているのでしょうね。そうじと同じで、これは永久運動ですから。


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