一方で、治療が昔より難しくなってきた部分もあるという。
「かつてに比べ、自分の歯が残っている高齢者が格段に増えました。残った歯が元気でしっかり機能しているうちはいいのですが、年齢とともにご自分で歯の管理ができなくなるケースが多いのです」
先日診た患者は、28本中25本も歯が残っていた。だが独居で認知症になり、歯磨きが困難に。その結果すべてが虫歯になって10本以上が次々と折れ、ケアマネジャーから治療依頼が来た。
「また、寝たきりの方で、歯根が化膿していたけれど次の手が打てず、1ヵ月ずっと抗生剤を処方して、炎症を抑えたケースもあります。体調が悪ければ抜歯もできません」
部分入れ歯は、総入れ歯よりもさらに調整が難しい。80歳で20本歯を残そうと、国を挙げて啓蒙した「8020運動」が、思わぬ状況を生んでいるようだ。
「今後増えてくると考えられるのは、インプラントの患者さんです。インプラント自体がうまく機能していればいいのですが、高齢になって不具合が起きてしまった場合、抜くには手術するしかありません。訪問歯科でも難しいかじ取りが増えてくるでしょうね」