(イラスト:横尾智子)

「女性活躍」がスローガンとして謳われ、女性の社会進出は進んでいるものの、日本女性の離職率は男性より高いままです。厚生労働省の調査によれば、2018年の離職率は全体で14.6%。男女別に見ると、男性は12.5%、女性は17.1%と差があります。年代別でみると、特に20代後半から40代にかけては女性の離職率が高く、結婚、出産・育児を理由に仕事から離れることが原因と思われます。また、女性の正規雇用の率が結婚前と結婚後では大きく低下するというデータもあります。結婚して子どもにも恵まれ、なんの不自由もなかったが、私のなかで何かがくすぶって…。澤口朋子さん(仮名・栃木県・主婦・60歳)は家事と仕事と勉学で10年間、努力をし続け、あるものを手にしました。

いろいろな学校案内を取り寄せて

「蒔かぬ種は生えぬ」と言うが、私の心に種が蒔かれたのはいつ頃だろうか。

27歳で、いわゆる寿退社をした。そのとき、勤め先の支店長がこんな忠告をしてくれた。「女性社員が結婚して退社してくれるのは、会社としてとてもありがたい。会社はしょせん男のための組織だからね。けれど女性は、結婚したからといって安心ではない。長い人生、旦那さんに万一何か起きたときのことを考えておいたほうがいい。イザというとき、お金を稼げる芸を身につけなさい」云々。

その忠告は、結婚後のことまで頭になかった私の心にズシリと響いた。支店長はさまざまな女性の現実を見てきたのだろう。この忠告こそが、私にとっての種だったようだ。

結婚後、二女に恵まれ、夫と姑との暮らしは順調だった。しかし、私の心のなかでは何かがくすぶっていた。育児も少し落ち着いた30代半ばの頃。ある日ふと、新聞広告が目に入った。某有名企業が主催する和文英訳コンテストである。「英語力に自信のある方、次の日本文を訳してご応募ください。ネイティブ講師が採点します」とある。ビジネスレターの翻訳だった。

私は興味をそそられ、高校時代の英和・和英辞書を頼りに英訳して応募してみた。数日後、採点された答案が返送されてきたが、90点超えの思いがけない評価に驚いた。「新しい課題にも挑戦してください」とコメントが添えられていたので、再び英訳して郵送。後日、また高得点の添削が戻ってきて、通信教育の案内も同封されていた。

そこで、私は英語の勉強を再開してみようと思い立ち、早速受講を申し込んだ。高校卒業以来、錆びついていた頭が息を吹き返した。1年受講した後、英検準2級、工業英検4級、3級に合格。自分でも驚くばかりだ。