肩書がないと判断できない状態に
同様のことは、会社などにおける仕事上の縄張り争いにも通じます。顧客のために付加価値を提供するとか、社会に貢献するといった企業の上位目的を忘れ、利益や面子のために自分の組織のことだけしか考えなくなるという状況は、およそありとあらゆる集団が経験する問題と言ってよいでしょう。
同様に、多数の人員で構成される組織には不可欠である階層という抽象化も、仕事において無用な非効率性を生み出します。管理職に報告するための報告が増えるとか、階層によって伝えられる情報量が異なり意思疎通が取れないなどです。
ところがこのような組織や階層の壁というのは、見えないにもかかわらず、組織に属する人の頭の中にはもはや形があって、触ることができるのではないかと思うほど強固なバイアスとして私たちの行動に大きな影響を与えます。
このような集団における生活が長くなった人は、周りの人を所属や肩書で見るようになります。「組織」や「役職」という見えないものが固着し、離れられなくなった人は、他の人を見る時、常に所属や肩書とセットでなければ判断できなくなってしまうのです。
このような場合、抽象化された属性の固着は人種差別やジェンダー差別につながっていきます。ここまで挙げたのは全て、集団での社会生活を営むために用いられている抽象概念が「固着化」することで、むしろ思考の自由度が奪われてしまっている事例です。