長谷川 もしこの先も自宅でお母さまを看るのであれば、そろそろ在宅医による訪問診療をお願いするといいと思います。進行段階が「冬」になったときに必要なのは、在宅か施設か検討し、その準備を進めることです。

岩佐 勉強になります。ちなみに高齢社会では遅かれ早かれ認知症になる方が多いと思いますが、進行が早いか遅いかは、生活習慣と関係があるのでしょうか。母の場合、父と不仲で長年ストレスが蓄積していました。それもよくなかったのではないかという気がしています。

長谷川 それは大事な視点ですね。患者さんを見ていると、過剰なストレスは脳に悪影響を与えていると感じます。私の経験上、認知症の進行が早い女性の夫は、独善的で威張っている人がものすごく多い。たとえばご本人の前で、「僕は規則正しい生活を心がけているのに、うちの妻はいい加減で何もやらないから認知症になったんだ」などと言い放ったり。そんなことを言われたら、誰でも思考が止まってしまいますよ。

岩佐 母もずっと我慢していたと思います。なにせ父は気に入らないことがあると、ちゃぶ台をひっくり返していましたから。

長谷川 ええ! あれって漫画や映画の世界だけじゃないんだ。

岩佐 そうなんですよ。私は母が大好きで、しんどかっただろうと思うからこそ、そばにいてあげたいという気持ちが強いんです。父は時が来たら施設に入ると自分で言っているので、母とはもうしばらく自宅で一緒に過ごしたいと思っています。

長谷川 そのお気持ちはよくわかるし、献身的な介護には頭が下がります。でも、くれぐれも無理はしすぎないように。岩佐さんはたしか、来年にはお子さんが生まれるんですよね。

岩佐 はい。ですからこの先も、いろいろな人の手を借りないと介護はできないと思っています。

長谷川 周囲の助けを得ながら、「ほどほどに」が一番。認知症の進行過程を知っているだけでも、心身に余裕を持って後悔のない介護ができるはずですよ。