クリスマスのコマーシャルも変化

このような状況を鑑み、今年はデパートやスーパーマーケットのクリスマス商戦用コマーシャルも倹約モードになっている。クリスマスを指折り数えて楽しみにしていた愛らしい子どもが、欲しかったプレゼントを当日に貰って大喜び、というような、ほっこりした内容で毎年人々を魅了するジョン・ルイス(英国の百貨店)のクリスマス・コマーシャルでさえ今年は様変わりした。

なにしろ、主人公がかわいらしい子どもでも動物でもなく、くたびれた顔をした中年男性なのだ。中年のおじさんが、なぜか一生懸命にスケートボードの練習をしている姿が映る。近所の歩道で、スケートパークで若者たちに交じって、職場のコンピューターでスケートボードの動画を見て、一生懸命に努力しているが、全く滑ることができない。ようやく地面のスケートボードを足で蹴り上げ、手でひょいと掴めるようになって大喜びするようになったとき、クリスマスの飾りつけが施されたおじさんと妻の家に誰かが訪ねてる。

おじさんがドアを開けると、ソーシャルワーカーが不安そうな顔の女の子を連れて立っている。少女の手には使い込まれたスケートボード。玄関ホールに立てかけられたスケートボードを見て少女が顔を輝かす。おじさんが「僕もちょっと滑るんだ」と笑い、少女を家の中に迎え入れる。このラストシーンまで見て、視聴者は、おじさんは里親になろうとしていたのであり、預かることになった少女の趣味がスケートボードだと知り、一緒に遊べるように練習していたのだと知るのである。

例年のかわいらしくてハッピーな作風と違い、今年は社会派映画監督のケン・ローチ風と言われるジョン・ルイスのコマーシャルだが、いまの英国の人々の心情にはこちらのほうが合っているのだろう。「クリスマス・コマーシャルで初めて泣いた」という人が周りにも多い。

とはいえ、こうしたコマーシャルを、「暗い」とか「クリスマスらしくない」と嫌う人たちもいる。だから、例えばマークス&スペンサーは例年どおりのキンキラキンというか、クリスマスらしいゴージャスな料理を並べた食卓のコマーシャルを展開しているが、今年、このような食事にありつける人たちがどのくらいいるのかと反感も買っているようだ。