曽野綾子さん、飼い猫の雪と一緒に同じ方向を向いて(撮影・産経新聞社写真報道局 酒巻俊介)
2021年、総務省が発表した統計では、65歳以上の高齢者人口は、3640万人と過去最多で、総人口に占める割合は29.1%になりました。さらに、男女別にみると、男性が1583万人、女性が2057万人と女性が男性より474万人多くなっています。91歳になる作家・曽野綾子さんが綴るエッセイには心が励まされるような言葉が並び、一人で過ごすシニア女性が前向きに生活するためのヒントが盛り込まれています。そんな曽野さんが老後の日常から見出した大切なことは――。

同じ家で、同じように暮らす

夫の三浦朱門(みうらしゅもん)は2017年の2月3日に亡くなった。

亡くなってからの時間、私は見かけは明るく穏やかに生きてきた。友人の中には、私が以前と同じ家に住んでいるか、とまで聞いてくださった方があったが、

「私は同じ家で、同じように暮らしております」

と笑って答えていた。

何一つ変化を見せたくないような気がする理由の背後には、次のようなこっけいな真理がある。

もし夫の魂が幽霊のように空の高みから今でも我が家を見ているとしたら、私の家の中や庭が急にきれいになったり、それまでにないほど荒れ果てて来たら、夫の幽霊は、他人の家に来たかと思ってさぞかし迷うだろう。

どちらの変化もない方がいい。ただ、夫が生きていた時から、私は足元が冷えて寒い寒いと言って床暖房を考えていたので、その計画だけは続けることにした。