飼い始めた2匹の猫 左:直助 右:雪(撮影・産経新聞社写真報道局 酒巻俊介)

もうすぐ死ぬならお金残さずに使った方がいい

しかし他の生活では、見た目も全く変わらなかった。夫の死後飼い始めた2匹の猫だけが、家族の数を埋める大きな変化である。床暖房を一番喜んだのは彼らだろうと思うと、私は渋い顔になっていたが、同じくらい年をとった女友だちとおかしな会話も交わした。

「もうすぐ死ぬのに床暖房をするんだから、腹が立つ」

と私がぐちると友だちは言い返した。

「もうすぐ死ぬならお金残さずに使った方がいいじゃないの」

私は夫と実によく喋って日々を過ごした。

『人生は、日々の当たり前の積み重ね』(著:曽野 綾子/中公新書ラクレ)

最後の入院の時、病院の看護師さんはおそらく回復のきざしは期待できない、と思ったからだろう。

「しばらくすると、もうお話をされなくなると思いますので、今のうちにお聞きになりたいことは、お話しになっておいてください」

と言ったが私は、

「私共はもう60年も一緒に暮らしましたから、充分に話はいたしました」

と答えた。