もうすぐ死ぬならお金残さずに使った方がいい
しかし他の生活では、見た目も全く変わらなかった。夫の死後飼い始めた2匹の猫だけが、家族の数を埋める大きな変化である。床暖房を一番喜んだのは彼らだろうと思うと、私は渋い顔になっていたが、同じくらい年をとった女友だちとおかしな会話も交わした。
「もうすぐ死ぬのに床暖房をするんだから、腹が立つ」
と私がぐちると友だちは言い返した。
「もうすぐ死ぬならお金残さずに使った方がいいじゃないの」
私は夫と実によく喋って日々を過ごした。
最後の入院の時、病院の看護師さんはおそらく回復のきざしは期待できない、と思ったからだろう。
「しばらくすると、もうお話をされなくなると思いますので、今のうちにお聞きになりたいことは、お話しになっておいてください」
と言ったが私は、
「私共はもう60年も一緒に暮らしましたから、充分に話はいたしました」
と答えた。