写真を拡大 35mmフィルムカメラ 50mmF1.4 F4 1/60秒 ISO100(モノクロフィルム) Y2フィルター オーストラリア・シドニー
カメラやスマホのカメラの機能も進化し、「上手な」写真は誰もが撮れるようになりました。では、そのなかでプロはどのように「人の心を掴む」写真を撮っているのでしょう? 
オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトとして撮影してきたフォトグラファーの相原正明さん。撮影における心得を記した『光と影の処方箋』(玄光社)から、一部を抜粋する新連載。相原さんが提唱する、被写体を通して心情を表現していく「写心術」とはーー。第14回は「魅力的なポートレートの撮り方」です

ポートレートは単に表の顔を撮るだけではない

〔 撮り方 〕

フランスの国旗がたなびく路地裏のカフェ。外のテラスに1人おじいさんが座っていた。

「カメラ持っているなら、俺がカメラを取られないように守ってあげるので隣に座りなさい」と眼光鋭い老人に声を掛けられた。

不思議な気持ちで隣に座ると、その老人には只者ではない気配が漂っていた。

僕は彼のベレー帽のバッジが気になり話しかけると、フランス特殊部隊のバッジで、昔その部隊にいたときの話をして、小一時間耳を傾けていた。

最後に「写真を撮らせていただきたいのですがムッシュ」と頼むと快くOKしてくれた。50mmレンズを軽く見てもらい、無表情の感じで撮った。

ピントは瞳に合わせて、バッジに光が当たっていることを確認して撮影した。

その瞳に写っている世界は、僕らが見ている世界とはまるで違うのではないかと思い、シャッターを切りながら背中が「ぞくっ」としたのを覚えている。

『光と影の処方箋』(相原正明著/玄光社)