一番のテーマは家族愛だった

上白石が演じた戦争未亡人・橘安子と、深津が扮した一人娘の雉真るいは終戦6年後の1951年、誤解がもとで生き別れた。その2人を引き合わせようと、78歳になっていた安子を背負い、全力で走ったのは38歳の孫・ひなた(川栄)だった。

そのとき、2003年。るいは59歳になっていた。母娘は52年ぶりに再会を果たす。この作品における最大のヤマ場だった。

見どころの多い作品だった。安子と雉真稔(松村北斗)、るいと大月錠一郎(オダギリジョー)のそれぞれの純愛、張りめぐらされた伏線の意味。だが、一番のテーマは家族愛、肉親愛だった。

1945年6月の岡山大空襲で妻・小しず(西田尚美)と母・ひさ(鷲尾真知子)を失った安子の父・橘金太(甲本雅裕)は生気が抜けてしまった。泣く力すらなくなっていた。それでも出征中の算太を迎え入れるため、和菓子屋「たちばな」の再興を目指すが、力尽きる。

金太は他界する際、帰還した算太の幻影を見た。よほど生きて帰って来ることを願っていたのだろう。出征するまでは不真面目な算太を叱り続けていたのに。趣味もなく、仕事一途だった金太の原動力は家族にほかならなかった。