家族愛が求められない時代はない

それは安子に冷たかった姑の雉真美都里(YOU)も同じ。美都里の言動が常軌を逸するようになるのは、安子の夫で長男の稔の戦死が分かってから。安子に逆恨みすることでしか悲しみを紛らわせられなかった。

死者まで家族を愛し続けた。英霊になった稔は1994年の終戦記念日、るいに会いに来た。るいの誕生も見ないまま出征し、戦死したので、心残りだったのだろう。リアリティの欠片もない展開だったが、それを視聴者側は許した。観る側も家族愛の力を信じているからだ。

朝ドラが観る側を惹き付ける最大の理由はどの作品も家族愛をテーマの1つとしているから。その形はそれぞれ違うし、濃淡も異なるが、近年の朝ドラで家族愛を描かない作品はない。

プライムタイム(午後7時~同11時)のドラマの場合、ホームドラマが全盛だった昭和期と違い、家族愛をテーマとするドラマはそう多くない。年明け1月からの冬ドラマもラブストーリー、サスペンスが目立つ。

だが、家族愛は普遍的なテーマ。求められない時代はない。『カムカム』の場合、それを細かいところにまで織り込んだ。例えば雉真の「雉」は古くから親子愛の象徴。雉の親子が山火事から逃げ遅れると、親鳥はヒナ鳥を胸に抱き、炎から守るとされているからだ。

隅々まで考え抜かれた作品だった。脚本を書いた藤本有紀氏にとって、渾身の一作だったに違いない。