「堂々としていて、クールで、才能に溢れた女の子。そういうかっこいい主人公を小説に描けるのは嬉しいことでした。」(撮影:本社・奥西義和)
富山県出身で、『ここは退屈迎えに来て』をはじめ、何者かになりたくて悩んだりあがいたりする、地方出身の女の子を主人公とした小説を書いてきたという山内マリコさん。
今回、ユーミン50周年にあわせた荒井由実時代を小説化するという話が来て、はじめは戸惑ったと言います。しかし、東京都とはいえ、八王子出身のユーミンにも同じ〈東京への憧憬〉という、地方出身者の共通点があったことに気付いて――(構成:塚原沙耶 撮影:本社・奥西義和)

ユーミンという少女の「冒険小説」

ユーミンこと松任谷由実さんのデビュー50周年にあわせて、荒井由実時代を小説に書いてみませんかというお話をいただきました。

ユーミンは10代から文化サロン的レストラン「キャンティ」に通っていたなど、都会的な伝説も多く、まさに雲の上の存在。

一方、私がこれまで書いてきたのは、何者かになりたくて悩んだりあがいたりする、地方出身の女の子。接点はなさそうですが、〈都心との距離感〉で考えると、実は符合するところもあるんです。

よく知られているように、ユーミンが生まれ育ったのは八王子。東京都内ではあるけれど、都心に出るには電車で1時間弱かかる、多摩川の向こう側なんです。だから〈東京〉に遊びに行くのは、毎回が「小さな上京」だった。

でも、その距離があったからこそ都会にワクワクできるし、あのキラキラ感を表現できたのだと思います。東京への憧憬は、地方出身者の特権。この共通点があれば、一気にリアルに感じられます。自分が書いてきた小説の、延長線上にある主人公と捉えて臨みました。