『婦人公論』10月号の表紙に登場した松原智恵子さん

「そのときはお願いね」くらいの気持ちで

おかげさまで、これまで大病をしたこともなく、年齢を考えれば健康だと言えるでしょう。それは、子どもの頃から続けている日本舞踊のおかげかもしれません。座った姿勢からスッと立ったり、腰を落として歩いたり、足腰を使う立ち居振る舞いで自然と鍛えられるのです。

もう一つ、30年近く続けているのがウォーキング。50歳になるかならないかの頃、それまで自発的に歩くことなどなかったのですが、息子の希望で犬を飼い始めて。犬のためとはいえ、体力が衰え始める前に散歩の習慣が身についたことはラッキーでした。もうずいぶん前に旅立ってしまったけれど、ワンちゃんに感謝ですね。

近所を少し歩くだけでも、出会いがあります。つい先日、公園で幼い兄弟とお母さんに遭遇しました。喉が渇いたのでジュースを飲もうとしたら、上の子に「あ、ジュース飲むんだ」と言われ、下の子もじっと私を見るので、「飲む?」と聞くと「うん」。

お母さんの許可を得て未開封のジュースを渡し、そのまま帰ろうとしたら、後ろから大きな声で「ありがとう!」。それがもう可愛くて。幸せな気分になりました。そんな何気ないふれ合いやささやかな日常のなかに、喜びの種はたくさん見つかるのですね。

そして何より、私には大好きな仕事があります。与えられればどんな役でもやりたいし、健康でありさえすれば仕事は続けられる。「生涯現役」は私たち夫婦の目標でもありましたから。

私が一人になることを案じていた夫です。今はまだ仏前で愚痴ばかり言ってしまいますが、「これまでと同じように仕事も趣味も充実させて、毎日楽しんでいます」と報告できるようになれば、やっと安心してもらえるかもしれません。

自分がどんな死に方をするかは知る由もなし。夫は家族に負担をかけずに旅立ったけれど、私はそうはいかないかもしれない。だけど、「そのときはお願いね」というくらいの気持ちです。少しの迷惑をかけ、好きなことを続けながら、できるだけ心も身体も健康に夫の分まで長く生きる――それがこれから先の私の目標かな、と思うのです。

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