タヌキによる温泉発見の由来や伝説
●湯河原温泉(神奈川県足柄下郡湯河原町)
湯河原町観光課発行の『ゆがわらのおはなし』の中に以下のような内容の話が収められている。
「猟師の放った弓矢が右後ろ足に刺さった1匹の年老いたタヌキが、湯河原で谷の岩間から立ち上る湯煙を見て温泉を発見し、早速その湯で傷口を洗ったところ傷は全快した。この老タヌキは、この不思議な湯河原の温泉の恵みにいたく感謝し、『これこそ、神仏のお加護というものだ。このご恩を何とかお返ししなければ』と考えた。
ある時、三島に商用に出かけた湯河原の下村に住む弥作が湯河原の渓谷に近づいた頃には陽も暮れ、疲れ果てていた。そこに突然タヌキが化身した妙齢の美女が現れ、『弥作さん、大変お疲れですね。この先に温泉が湧いています。ひと浴びするとすっと疲れが抜けますよ。妾(わらわ)が案内しましょう』と言う。誘われるままに美女の後をついて行くと、岩陰に透き通った温泉が湯煙を立てて溢れていた。弥作はすぐに旅衣を脱ぎ捨て湯壺に全身を沈め、身体を思う存分伸ばしたところ、疲れはたちどころに消えてしまった」
万葉集には
「足柄(あしがり)の土肥(とひ)の河内(かふち)に出づる湯の世にもたよらに子ろが言わなくに 作者不詳(巻一四― 三三六八)」
と詠まれており、開湯は約1300年前と考えられている。