●温泉津(ゆのつ)温泉(島根県大田市温泉津町)
昭和62年、温泉津町観光協会発行の『温泉津・大森銀山50の謎』に、次のような話が残っている。
「今から約1000年前、一人の旅僧が温泉津松山に来て小さなお堂に泊った。真夜中に突然激しい大風、雷雨となり、旅僧はお堂の柱にしがみつき、大声でお経を唱えた。するとその時、巨大な黒い塊が目に飛び込んできた。
深い毛に覆われ、目は赤く輝き、鋭い爪を持っていた。旅僧は錫杖で《エイッ》と打ちかかった。すると黒い影は逃げ去り、床には血痕が付いていた。翌朝、旅僧は村人たちとともに血痕をたどりながら行方を捜すと、岩の間から湧き出ている湯に浸かる大ダヌキを見付けた。大ダヌキは肩から右手にかけて新しい切り傷があった。
旅僧は『この湯は薬湯に違いない』と村人に教えた」とある。村人は自分たちを薬湯(温泉)に導いてくれた大ダヌキに感謝し、《温泉を教えてくれた大ダヌキ様》と親しみを込めて呼んでいる。
※本稿は、『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(中央新書ラクレ)の一部を再編集したものです。