社会的なつながりが強い個体は、それが弱く不安定な個体より長生きする(提供:photoAC)

人間関係が健康に影響する理由

イヌを飼っていることと長生きすることには関連が見られる。家族や友人と親しい関係にあることもそうだ。ある研究では、出版されている自伝を精査し、社会的役割を表す言葉、例えば父、母、兄弟姉妹、隣人といった言葉の頻度を比較した。それらの頻度が最も高い著者たちは最も低い著者たちより6年以上長生きしていた。

健康的な食事、運動、新たな生活スタイルは、あなたを大きく前進させるだろう。だがそれだけでは、ゴールには辿り着けない。

必要な最後の要素は、社会的な人間関係だ。心の状態が体の健康にとっていかに重要であるかをわたしたちは知っている。それに、人間として最も強い心理的欲求の一つが、何らかの集団に属したいということであるのもわかっている。

孤独は、早死にとの関連がきわめて強い。太りすぎと早死にとの関連以上に強いのだ。親密な社会的つながりへの欲求の進化的起源は非常に古く、遠い親戚にも見られる。ヒヒでさえ、社会的なつながりが強い個体は、それが弱く不安定な個体より長生きするのだ。

他者と一緒にいることは幸せや安心感をもたらすが、それだけでなく、社会的関係は生きる意義や義務感ももたらす。長寿に関するフィールド調査で常に明らかになるのは、長寿の人々は意義と目的について意識が高く、いくつになっても熱心に社会参加しているということだ。

そういう人々は人生を「現役時代」と「引退後の年金生活」に分けるのではなく、生涯にわたって何らかの役目や責任を担い続ける。

「毎週日曜日に孫のために料理をする」とか、「毎日階段を掃除する」といったささやかなものであったとしても。興味深い例がある。死亡率は21世紀に入った直後に上昇した。まるで、亡くなった人々は新たなミレニアムを体験するという目標によって、生かされていたかのように。

 

※本稿は、『寿命ハック――死なない細胞、老いない身体』(新潮社)の一部を再編集したものです。


『寿命ハック――死なない細胞、老いない身体』(著:ニクラス・ブレンボー 、訳:野中香方子/新潮社)

近年、「老化は治療可能な病気」とみなす研究者は多く、アンチエイジングから不死に至るまで研究は隆盛を極める。実際、自然界には400年近く生きるサメや、根系が1万4000年以上生き続ける樹木、果ては若返るクラゲも存在する。永年の夢だったはずの「不老不死」は今、いったいどこまで実現可能になっているのか。研究の最先端と未来を、ユーモアを交えて分かりやすく解説。実践的アドバイスも紹介する。