長生きに関して「思考は現実になる」とは言い切れないが、それでも、実年齢より若い気でいる人の方が長生きしやすいことを複数の研究が示している(提供:photoAC)
いわゆる「アンチエイジング」など、老化を防いで長生きすることを意図した研究が世界各地で進められています。そんな中、気鋭の分子生物学者ニクラス・ブレンボー氏は、22か国で翻訳が決まったベストセラー『寿命ハック』を通じて、「心が体をコントロールする」という見地を科学的に示しました。プラセボ効果に代表される「心の状態」が健康や寿命に与える影響とは――。

偽薬でも効くプラセボ効果

仮にわたしたちが医師で、共通の友人であるジョンが診察室を訪れたとしよう。彼は頭痛を訴え、わたしたちは「大丈夫、よく効く薬がありますよ」と応じる。しかし、頭痛薬を与える代わりに砂糖の錠剤を与える。そうとは知らない彼は礼を言い、コップの水でそれを飲む。

さて、砂糖の錠剤には何の効果もないはずだ。それでもまもなく頭痛は治まり、ジョンは礼を言う。彼は嘘をついているのだろうか。

そうではない。彼が経験したのはプラセボ効果と呼ばれる古典的な薬の効果だ。これは「患者の期待が実際の医学的効果をもたらす」という現象だ。言い換えれば、薬が何らかのハイテク分子を含むからではなく、患者が効くと思うから効くのである。

プラセボ効果はほとんどの医療行為において重要であり、とりわけ心理的な要素を含む病気ではいっそう重要だという証拠は多い。また、患者の思い込みが強いほどプラセボ効果は強くなりがちだ。患者がその薬を新薬だとか高価だとか思うだけで、あるいは単に薬が大きい、なぜか赤い、というだけでもずっとよく効くのである。