わからなさの魅力を訳したい

岸本 版画家のヴァロットンによる挿絵も不気味で。赤毛の男の子が主人公なのに、なぜかつるっぱげに描かれていたり。

酒井 なぜ。(笑)

岸本 子どもなのに夕食時にワインを飲むとか、とにかく、わからないことだらけ。でも、わからなさの強烈な魅力に引きつけられました。

この感覚は翻訳家になったいまでも変わりません。読んで、ただ面白いだけで終わらず、その奥に何か未知の核があるような気がして。それを知りたいし、訳したいと思うんです。

酒井 これからも、わけのわからない世界に、われわれをどんどん連れ出していただきたいです!

 

岸本佐知子オススメの本~翻訳の世界・2

『私の名前はルーシー・バートン』
<アメリカ>
私の名前はルーシー・バートン

エリザベス・ストラウト(著)・小川高義(訳)早川書店

入院している娘のもとへ疎遠だった母が訪ねてきて、5日間を一緒に過ごすことに。ポツンポツンと会話する親子の関係が、ぶっきらぼうで淡々としていて、日本文学に近い面白さがあります。翻訳本の初心者にも入りやすい小説だと思います(岸本さん)

 

『詩人キム・ソヨン一文字の辞典』
<韓国>
詩人キム・ソヨン一文字の辞典

キム・ソヨン(著)一文字辞典翻訳委員会(訳)CUON(クオン)

詩人キム・ソヨンが、ハングル310字を選び、一文字ずつ解説する私的な辞典です。警句、笑い話、詩、エッセイなど長短いろいろあって、どこから読んでも楽しめる。女性8人のチームによる翻訳が、言葉遊びを的確な日本語で表しています(岸本さん)