秘湯マニアの温泉療法専門医が教える-心と体に効く温泉

●老神温泉(群馬県沼田市利根町)

その昔、赤城山を根城にしてその近辺を統治していた神と日光・男体山を統治していた神が聖域・神域をかけて激しく争っていた。お互いに大蛇とムカデに化けて日光にある戦場ヶ原で繰り広げられた戦いで、大蛇に化けた赤城の神は日光のムカデ神の軍勢が放った矢で大きな傷を負った。仕方なく大蛇神は戦場ヶ原を撤退し、今の老神温泉付近まで逃げてきた。そこで大蛇神がムカデ神軍より放たれ、体に刺さっていた矢を抜き、地面に突き刺したところ、そこから温かい湯が湧き出て、みるみる間に湯の泉を作った。

大蛇神がその湯に浸かると、たちどころに傷が癒え力が漲ってきた。そこで、体勢を立て直してムカデ神を見事に日光へと追い返したという伝説が残る。

この故事からこの温泉は当初「追い神」と呼ばれていたが、後に転じて「老神」となった。老神温泉の開祖たる大蛇は、赤城の人々に「守り神」として信仰されており、大蛇への感謝を込めて毎年5月の第2金・土曜日に「大蛇まつり」が行われている。

 

老神温泉の渓谷(写真提供:Photo AC)

※本稿は、『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(中央新書ラクレ)の一部を再編集したものです。