好きなことで食べていけるか

外国人留学生を増やすことが政策として掲げられたり、少子化問題も深刻化していく中、若者に対して魅力的な学問ということでアニメや漫画は注目を浴びるようになった。

「アニメや漫画の講座があるというだけで受験者数が増えたりするんです。大学全入時代の到来がすぐそこまで来ている、という事実を背景に2010年代くらいから各大学で設置されるようになっていきました」と須川さんは言う。

須川さんのもとには、いろんな興味を持った学生が集まる。大学院生たちが研究するテーマは多種多様で、声優研究もあればオタク研究もあり、萌え研究もある。

こうした学生はアニメが好きで研究したがるわけだが、須川さんは好きなことを研究するのは難しいと学生に忠告している。というのも須川さん自身、幼い頃からアニメが好きで、「サイボーグ009」の島村ジョーに沼ったこともあった。

「でも私は多分、あまり物事にのめり込まない性格なので、オタクになりきれなかったんだと思うんです。その距離感があるので、研究ができるのではないかと思います。のめり込みすぎるとどうしても視野が狭くなるので、批判的な視点を持ちにくくなるんです」と須川さん。

好きすぎて、研究をやっていると嫌になる場合もある。ディズニーが大好きで、ディズニーの研究をしたいと言ってくる学生もいるが、同時にディズニーには黒歴史もある。知ってしまった以上好きではなくなってしまったり、研究をしないといけないからとの理由でのめり込めなくなってしまって、研究を辞めてしまった学生もいた。

「だから私は、自分がすごくのめり込んでいるものは研究できないと思いますね。あまりのめり込むことのない私ですが、この頃推しができて。その人が出ているドラマや映画をすごく好んで見るようになって、『この人の演技はすごく素晴らしいな』と思ったりしますが、その人を研究対象にはしたくないんです。学生には、楽しむだけなら研究しないほうがいいよ、と言っていますが、研究したらしただけ、見えなかった魅力もわかってくるので、そこのバランスですよね」

※本稿は、『世界のヘンな研究―世界のトンデモ学問19選』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


世界のヘンな研究 世界のトンデモ学問19選』(著:五十嵐杏南/中央公論新社)

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