前の職場には14年いた。はじめは主婦のパートとして採用され、離婚してからは、フルタイム勤務に変更して働き続けた。

職場でとくに仲が良かった3人、和美、亜紀、慶子は、同僚ではなく親友だと思っていた。お互いに仕事やプライベートの悩みを打ち明け合い、支え合う。私も3人に頼られたら全身全霊で応えてきた。

ある日、同僚から和美が専務の愛人であると聞かされた。その関係はなんと10年に及ぶのだという。「専務の愛人なのをいいことに、まったく仕事をしなくて困っているの。あなたは仲がいいでしょう。注意してくれない?」と頼まれた。

心の底から驚いた。そんな話、和美の口から一度も聞いたことがなかったから。彼氏はいないと言っていたのに。

それから注意してみてみると、たしかに上手に仕事をサボっている。いつもデスクで頬杖をつき、パソコンの画面を見つめているだけ。周りが残業していると、自分もちゃっかり残って残業代を稼いでいる。いくら友だちでも、見過ごすことはできなかった。私が注意しなければ、と思った。

亜紀と慶子に相談すると、なんと2人とも和美が専務の愛人であることを知っていた。だが、なんとなく言いづらかったのだという。私が和美に注意したいと言うと、賛同し、背中を押してくれた。このとき、私だけが知らされていないことの意味をよく考えればよかったのだが……。