これまでもあった社長の吹聴

Fさんによれば、社長はこれまでも休職中の社員を笑い物にすることがあったし、悪口を言うことも少なくなかったという。

あるときなど、勤務中に機械に片手をはさまれて指先の一部を失った従業員が労災を申請した理由について、「あいつは嫁さんと離婚話でもめていて、慰謝料や養育費を払うのにお金が要るから、がめつくなった」と笑いながら話したようだ。

片田さん「あまりおおっぴらにしたくない秘密をべらべらと、しかも面白おかしく話すのは、それが悪いことだとは思っていないからだろう」(写真提供:祥伝社)

ちなみに、この従業員の労災申請を社長は何とかして阻止しようとしたが、従業員が弁護士に相談して訴えるかもしれないとほのめかしたため、渋々(しぶしぶ)労災申請を認めたらしい。

この従業員の離婚に関して社長が話したことがどこまで本当なのか、わからない。単なる憶測にすぎないかもしれない。

ただ、離婚、とくに現在進行中の離婚は多くの人々にとって、あまりおおっぴらにしたくない秘密のはずだ。

にもかかわらず、そういう秘密をべらべらと、しかも面白おかしく話すのは、それが悪いことだとは思っていないからだろう。

※本稿は、『自己正当化という病』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。


自己正当化という病』(著:片田珠美/祥伝社新書)

うまくいかないことがあるたびに「私は悪くない」と主張し、他人や環境のせいにする。やがて、周囲から白い目で見られるようになり、自分を取り巻く状況が次第に悪化していく……。このような「自己正当化という病」が蔓延している。精神科医として長年臨床に携わってきた著者が「自分が悪いとは思わない人」の思考回路と精神構造を分析。豊富な具体例を紹介しながら、根底に潜む強い自己愛、彼らを生み出してしまった社会的な背景を解剖する。この「病」の深刻さに読者の方が一刻も早く気づき、わが身を守れるように――。