(撮影=大河内禎)
2021年、22年とドキュメンタリー映画の公開や関連書の刊行が続き、注目を集める「昭和のくらし博物館」(東京・大田区)。なぜ今、昭和のくらしにスポットが当たっているのか。博物館を訪ね、89歳の今も館長として活動を続ける小泉和子さんに話を聞きました(構成=山田真理 撮影=大河内禎)

「くらし」を学べる場に

「昭和のくらし博物館」の館長を務めて24年になります。ここでは四季の変化に応じた昭和時代のくらしの紹介や、庶民の生活から1テーマを取り上げる企画展(2022年12月現在は「昭和はこんなだった」)、洗濯板やすり鉢を体験してもらう小学生向けのプログラムなどを行います。読者のみなさんにとっても、「うちにもあったわ」「懐かしい」と感じるものがたくさんあるでしょう。ただ、そうした昭和の家や家具・道具を見て郷愁に浸るだけではもったいない。私はここを、「くらし」を学べる場にしたいと考えました。

玄関脇に設置された井戸汲みポンプと、洗濯板、タライ(撮影=大河内禎)

先日、館内の障子をすべて張り替えるという、暮れの恒例行事を行いました。障子の反故紙をかまどで燃やして、ご飯を炊いて、参加者全員でいただきます。そのとき、参加していたある小学生の女の子が、生まれて初めてマッチを擦ることになりました。何度か失敗して、ぱっと火が燃え上がったとき、「火ってこんなに大きくなるのね。『マッチ一本火事のもと』ってこういうことなんだ」としみじみつぶやいたのです。

家事のなかのこうした発見を通じて物事を観察する力が養われます。技術を覚え、段取りを学ぶことも人を育てる力になる。私は家事を通じて、現代の便利で安全な生活のなかで失われがちな「生きていく力」をなんとか伝えていきたいのです。