灰皿飛ばしで名高いニナガワが、木場さんとの衝突は皆無だったというのも何となくわかる気がする。
――若い時から怒られないんですよ。僕は特殊でしたね。『天保十二年のシェイクスピア』(井上ひさし作)の初演の時、僕は語り手で、舞台の真ん中に居っぱなしで喋ろうと思った。
稽古の際、主役が入ってきても動かないでじっと見ていたら、演出助手が飛んできて、「木場さん、もう(出番は)終わってますから」って。いいんだ、って言うと、蜷川さんもそういう語りもお得だと思ったらしくて、駄目が来ませんでした。
蜷川さんとの最後の仕事は『海辺のカフカ』(村上春樹原作)。猫と話ができるナカタさんの役。百回以上やりましたね、海外公演もふくめて。女優さんも田中裕子、宮沢りえ、寺島しのぶと替わりましたからね。
あの時も、最初小説で読んだ時は、ナカタさんは暗くてボソボソ喋るイメージだったんですけど、演出家が自分の力量を見せつけようとしたのか、奇抜な舞台装置を考えたりして、ずるいなと思って。
これはボソボソ声じゃ勝てねえな、と、声を張りました。でも何も言われなかったです。