宛名の文字を見てワクワクする

というのも、手書きの文字には、その人の個性や存在感がにじみ出るからかもしれません。文字は自分の心の状態を映す鏡のようなもので、気持ちが落ち着いているときは穏やかな文字になるし、悩みごとや不安を抱えているときは文字もどことなく不安定。同じ人が書いた文字でも、年齢を重ねて変化していくのも面白い。

手書きの文字は、言わばその人の肉声そのもの。封筒の表に書かれた宛名の文字を見ただけで、誰から届いたのかすぐにわかります。ダイレクトメールの中にそんな一通を見つけたとき、ワクワクして早く封を開けたくなってしまうのです。

ここ数年、絵葉書のやりとりをしている友人も独特の素敵な文字を書く人で、郵便受けから取り出した瞬間に、「彼女からだ!」と嬉しくなります。彼女は、私がベルリンに家を借りていたときに知り合った日本人画家。今は南フランスに住んでいるのですが、旅先からちょくちょく絵葉書を送ってくれて。

そこには「今、Aに来ています。いい山があるので、今度、一緒にハイキングに行こうね」なんて、たわいのない言葉がほんの二言、三言書かれているだけ。でも、それが日頃から関西弁で喋る彼女の口調そのもので、絵葉書から彼女の声が聞こえてくるような気がするのです。

しかも、その絵葉書はたくさんの人の手に託され、はるばる海を渡り、予期せぬサプライズのように自分の手元に届いたわけですから。もちろんLINEでもすませられる内容ですが、これは何ものにも代えがたいギフトだなと思います。

しかも、1ユーロ以下の切手代で、およそ1万kmも離れた地から運んでくれるなんて、ものすごくリーズナブルな楽しみ方ではないですか。

読者の方からお手紙をいただくことも、私にとっては何より嬉しいご褒美です。どなたにもお会いしたことはありませんが、手紙にその人らしさがにじみ出ていて、一通一通から、書いてくださった方の姿かたちが浮かび上がってくる。

こんな貴重なお手紙は、絶対に捨てられません。これまでにいただいたお手紙はすでに段ボール何箱分にもなりますが、これからもずっと大切にとっておくつもりです。