「面倒なことに怒りを感じることが多い世の中だからこそ、僕はあえて、小さな「ありがとう」を探していきたい」
2023年2月9日放送『プロフェッショナル 仕事の流儀』に歌手のさだまさしさんが登場。曲作りやコンサートの裏側に密着し、70歳になった今も第一線で活躍するさだまさしさんに迫ります。緊急事態宣言が出されたコロナ禍の最中、自身の活動について思い語った『婦人公論』2020年6月23日号のインタビュー記事を再配信します。


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4月10日、自身の誕生日に行ったライブ配信で「緊急事態宣言の夜に」という新曲を披露したさだまさしさん。それは突然の事態に戸惑う人々の心に寄り添い、励ますメッセージでもありました。新型コロナウイルスをきっかけに世界が変わっていくなかで、さださんがいま考えていることは──(構成=篠藤ゆり)

家での時間は増えたけれど、やりたいことが多くて

僕は毎年80回くらいコンサートを行ってきたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、この春、30近くの公演が中止や延期となりました。歌を中心にした生活が長かったものですから、それがなくなったことにはいまだに慣れません。レコーディングやオンラインでの取材、ラジオやテレビ番組の収録など仕事はしているのですが、戸惑いがありますね。

これまでは、昼頃に起きてコンサートをやり、帰宅して夜中から朝方にかけて小説やエッセイの原稿を書いて寝る、という生活を送っていました。だから、家にいる時間が増えるとたくさん書けるかと思ったんですが……いつ書いてもいいとなると、案外モチベーションが上がらないんです。僕でさえこれですから、専業作家の方は大変でしょう。時間の制約がないということが、こんなに苦痛なのかと改めて思いました。

原稿を書く以外の時間は、興味があって買ったものの積んでいた本を読んでいます。これから読もうと思っているのは、戦国時代に宣教師として日本にやってきたルイス・フロイスが書いた『日本史』や、江戸文化の研究家だった三田村鳶魚(えんぎょ)の全集です。

僕は落語が好きなので、映像を探して楽しんだりもしています。やっぱり(三遊亭)円生がいいな、でも(古今亭)志ん生にはここが勝てないな、とか──。たとえば、同じ「居残り佐平次」という噺でも、立川談春と(古今亭)志ん朝を聴き比べて、同じ噺なのにこんなに印象が違うのか、面白いなぁと感心したり。1つの噺がだいたい1時間かかりますから、3つ聴いたら3時間。ほんとにあっという間に時間が過ぎてしまいます。(笑)

さらに、せっかく時間があるからと、クラシックの大曲を聴いて「こんなにいい曲だったのか」と発見する。違う演奏家ならばどうなるだろう? と、CDを探したくなる。……もうね、時間がいくらあっても足りないです。

家での会話が増えたかというと、これまでとあんまり変わらないかもしれないね。息子と娘もすでに独立しているし、僕からも「新型コロナウイルスのことが落ち着くまではお互い会わないようにしよう」と伝えているので。2人とも僕にはあんまりメールしてこないけど、奥さんにはけっこう連絡しているみたいですよ。