甘春堂「貝合せ」

貝合せは平安時代の貴族の遊びのひとつ。古くは貝覆いとも呼ばれ、二枚貝のはまぐりの内側に彩色を施したり、和歌を記したりして伏せ、同じ絵柄や歌の続きを見つけてその数を競いました。

描かれる絵や歌だけではなく、貝自体がほかの貝とは合わず、ぴたりと合うのは自身の片割れだけということから、男女の絆の象徴ともされて、お姫様の嫁入り道具や雛飾りの調度品としても大切にされてきました。

甘春堂の「貝合せ」は、そんな王朝の雅びをモチーフにした菓子。透明な葛と蕨を用いて、その中に丸い餡が潜んでいます。

餡の種類は季節によって異なり、春は「桜あん」(写真)、夏は「抹茶あん」、秋は「ゆずあん」、冬は「黒豆と金粉」と変化していきます。春になると登場する桜の餡は薄紅色を帯びて、やわらかな口当たりに桜葉の香りが口の中で広がる、まことにやさしい味わいのひと品です。

【関連記事】
【京の菓子】年の初めに贈りたい、松の幹を小豆であらわしたおめでたい菓子 紫野源水「松の翠」
【京の菓子】平安京の古瓦を模した形にふんわりと漂う柚子の香り。店の名を冠した日々のお茶の友 平安殿 「平安殿」
【京の菓子】江戸時代より親しまれた奈良漬けをスイーツに。奈良漬とバタークリームの意外なマリアージュ 田中長奈良漬店「奈良漬バターサンド」