「2作のカバーアルバムを通して、どんな女性もチャーミングだし、キュートだと、これまで以上に思えたのも大きな収穫です。」

どんな女性もチャーミングでキュート

『秋の日に』も、昭和の名曲にこだわり、6曲を取り上げています。今回も女性の歌手の歌ばかりというのは、ちょっとズルいと思いつつ。たとえば沢田研二さんの歌にもグッとくるものがたくさんあるけど、全盛期のジュリーと比べられたら私なんてひとたまりもないというのがあって。

でも一番の理由は、女性の世界観を男である私が歌うことによって、聴いてくださる人に新鮮なインパクトを与えることができるだろうと考えているからなんです。

「50代半ばになった今の自分ならではの解釈で歌いたい曲は何か」 という視点で、まず「あばよ」「まちぶせ」「恋におちて-Fall in love-」の3曲を選びました。

象徴的なのは荒井由実さん作詞作曲による「まちぶせ」。子どもの頃には怖い女性が主人公だと思っていたし、成長してからも見ないフリして通り過ぎたい女心だと感じていました。でも今は、女性に限らず誰の中にもある、ドロッとしたハートの機微を表現しているのだと受け止めています。

ストーカー気質といえば怖いけど、好きなんだからしょうがない。だって恋愛ってそういうものじゃない? でもみんな社会のルールの中で生きている。たとえば私は小説に登場する殺人者に共感を覚えることがあるのですが、現実の世界ではいかなる理由があろうとも人を殺めてはいけないと認識しています。

人が心の奥に秘めているディープな感情を浮き彫りにし、昇華してしまうユーミンって本当にすごいと思う。同時に歌には人の心のバランスを整える力があるのだと痛感しました。