どこでも入浴を可能にする訪問入浴サービス

そして、大きな生まれたての赤ん坊状態というか、動くことはおろか寝返りすら打てない高齢者を抱え上げ、そのまま浴槽へ移動させて髪や体をきれいに洗ってゆく。

「かゆいところはないですか?」

「腋も洗っておきますね」

まさに過不足のない思いやりを感じさせる柔らかな調子で言葉をかけながら、見ているだけで腰が痛くなるような重労働を軽やかにこなす若者たちがそこにいた。母親の胸や下半身が見えないようにさりげなくタオルで隠し、それが少しずれるたびにそれとなく元の場所に戻しながら、細心の注意を払って作業を行ってゆく。

絵=平松麻

後で英国にいる連合いや息子にこの訪問入浴サービスのことを話すと、そんなものを見たことがないので、部屋の中に浴槽を組み立ててポンプを積んだ車両からホースを延ばしてお湯を引いてくると言った時点で、わたしのホラ話としか思ってもらえなかった。

お風呂好きの日本人ならではのサービスだが、ここまでしてお風呂に入れてあげたいと思う気持ちがすごい。もちろん、お金が絡めばなんでもビジネスだ、と言えばそれはそうだが、思いつく時点でやっぱりすごいし、それを可能にする労働者たちがいることに驚嘆する。後日、自転車で近所を走っているときに、団地の駐車場に停まった訪問入浴サービスのバンから団地の階段のほうにホースが長く延びているのを見かけたが、どんなところにでも入っていってお風呂を組み立てて入浴を可能にするのだろう。