人に説明しづらい壁のシミ

夫は、打った打たないで叱ることはほとんどない。その代わり褒めることも滅多にない。準備が甘いとか練習態度が悪いとか怠慢なプレーとか、指摘したことを何度も言わせることに対して、激しい雷を落とすのである。

長男の翔大がむかし、夫に叱られた時、不貞腐れた態度をとった。あまりの怒りに、夫はなぜかドレッシングのボトルをテーブルに投げつけた。そのあとが、今もうっすらダイニングの壁に残っている。テーブルから壁までははかなりの飛距離である。この時の鬼のような形相も、翌日背中を丸めて雑巾で拭き取っていた夫の後ろ姿も、私の目にはしっかり焼きついている。
なんて人に説明しづらいシミなんだろう。

今も残る壁のシミ

夫は自分の言葉でどんどんヒートアップしていき、ますます怒りを増幅させていく。多分最初は「あの走塁はサインをしっかり見てなかっただろう」とだけ言いたかったことも、言い終わる前にてやんでーこんちくしょー、しまいには「いったいどこの誰に似たんかなぁあ!」となるのだ。

あなたです。
そっくりですが。

息子たちが派手に叱られる前に、私はできるだけどうでもいい話題で夫の怒りを散らそうと必死だ。落ち着きのない我が家の愛犬・ミッキー(トイプードルオス、7歳)にやたら話しかけてはその場を盛り上げる。

「おーいミッキー、なになに、今日はお肉の匂いがいたしますね、ってか???」

静かにフカフカクッションで寝ていたミッキーがバフっ、と顔を上げてあくびをする。なんも言うてへんがな。犬もこの後の嵐を予感しているんだろうか。肉の焼ける音のそばでやけにおとなしく寝ている。

フカフカクッションで寝るミッキー