「もうだめかもね」と冷めた表情で

そんなある日、私の留守中にAさんから電話がかかってきて、母に「お宅に出入りしていたあの三毛猫、今うちにいるんですけど、昨夜から吐き続けて具合が悪く、今晩か明日には亡くなりそうです」と告げたという。

帰宅してその話を聞き、翌朝早くAさん宅へと向かった。見ると、あの三毛猫が犬小屋の中で衰弱しきっている。Aさんはシレッとした顔で「毎晩この小屋で寝ていたの」と明かし、「もうだめかもね」と冷めた表情で言った。

私は心の底から憤りを覚え、「あなたの家には車も2台あるし、何よりこの猫はあなたを信頼してここに戻ってきていたのよ。それを、医者にも診せずに苦しむ姿を平気で眺めているなんて、人間ではない」と罵声を浴びせたかったが、そんなことを言っている時間はない。即タクシーを呼び、猫を引き取って動物病院へと走った。

「かなり吐いたり下痢したりしていますね。できる限り手を尽くしますが、今夜がヤマでしょう」という獣医師の言葉に涙をこらえて頭を下げた。帰宅しても食事が喉を通らなかったが、夜7時に獣医師から電話があり、「快復の兆しが見えています」との声を聞いて、喜びが湧き上がってきた。

しかし深夜に再び電話が鳴り、「やはりダメでした。残念です」の報せに呆然。Aさんがもっと早く知らせてくれたら、動物病院に連れて行く優しさがあったら、大切な命が救われたに違いないと思うと、悔しさでいっぱいになった。