(写真提供◎illust AC)
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんによる『婦人公論』の新連載「老いの実況中継」。90 歳、徒然なるままに「今」を綴ります。第1回は、【多様性の時代について】です──。 (構成=篠藤ゆり イラスト=マツモトヨーコ)

電話か郵便か、はたまたLINEか

友人と電話で話すのは、至福のとき。

足腰が弱り、外出がしにくくなった高齢者にとってはなおさらです。私も電話で旧友や仕事関係で出会った盟友たちとのおしゃべりを楽しんでいます。90歳の私より年上の方もいて、受話器越しに伝わってくる元気さに圧倒されますし、私も負けていられないと思ったりします。

先日、90代の方と電話でお話ししていたときのこと。「最近、耳がよく聞こえなくなったので、これからは手紙でやりとりしましょう」と提案をいただきました。補聴器を使っても電話の声が聞き取りにくい、という人の話を聞いたことがあります。私もいまは大丈夫ですが、そのうち耳が遠くなればトンチンカンな会話になってしまうかも。電話は楽しいけれど、手紙をやりとりするのもうれしい。そんなことを思いながら電話を切りました。

すると、その日のうちに、別の友人から電話がありました。

「病気で手がうまく使えなくて、ペンや筆を握っても落っことしちゃうの。だから、もう手紙が書けない……」

その友人は毎日のように絵手紙を送ってくれ、私も楽しみにしていました。彼女にとって、絵手紙を描くことは生きがいだったのでしょう。少し寂しそうに、「樋口さん、これからは時々、電話してもいい?」と言うので、「どうぞ、どうぞ」とお答えしました。

そんなできごとがあってほどなく、新聞の投書欄に、「毎日のはがき文通で認知症予防」という投稿が掲載されました。

91歳になる投稿者は、80歳まで保健師として働いていたけれど、最近ちょっと物忘れが激しいとか。そこで学生時代の友人と、お互いの認知症予防のために毎日はがきのやりとりをし始めたところ、それが生きがいになった。ウォーキングがてらポストに行くことも日課となり、どんなふうに書こうかと考えることで脳が刺激され、楽しくてしょうがない、というのです。この方にとっては、はがきは大事なコミュニケーション手段なのでしょう。